はじめに
去る2021年、筆者(正確には筆者の妻)はコロナ禍で和痛分娩による出産を経験しました。
最終的には東京都港区にある「愛育病院」を選んだのですが、数ある病院/クリニック(以下、「病院」と総称)の中から自分に最適なものを選ぶためには、相応の手間と時間がかかりました。
今回は、私と同じように無痛分娩・和通分娩を希望するが、どの病院を選ぶべきかで悩んでいる方の一助になればと思い、筆者の実体験を踏まえつつ、病院選びのポイントをまとめています。
前提知識
具体的な病院選びのポイントの前に、無痛分娩・和通分娩の前提知識を簡単に解説します。
無痛分娩・和通分娩とは
詳しい説明は他ウェブサイトに譲りますが、「無痛分娩」・「和通分娩」は「自然分娩」と対になる言葉で、出産時の痛みを「(限りなく)無くす」 or 「和らげる」ことを目的に麻酔を使用する分娩方法のことを言います。
中でも、「無痛分娩」では、陣痛促進剤を使って陣痛が始まるタイミングを人為的にコントロールする「計画出産」が多く行われています。
陣痛が始まるタイミングで麻酔を投与することができるため、出産時の痛みを最初から最後まで「可能な限り無くす」ことが可能です。
筆者が選択した「和痛分娩」は、陣痛促進剤は使用せず、自然に陣痛が始まったら自宅から病院に移動し、麻酔を受けるものです。
「無痛分娩」と異なり、陣痛が始まるタイミングをコントロールできないため、初めの数時間は陣痛の痛みを感じつことになります。
一方で、陣痛促進効果を持つ陣痛促進剤と抑制果を持つ麻酔のバランスを見つつ適宜薬剤を増量しながら出産を進めていく「無痛分娩」と比べ、「和通分娩」は母体への薬剤投与量が少なくて済むことがメリットになります。
上記の通り「無痛分娩」と「和痛分娩」は若干毛色が異なるものですが、「麻酔を使った出産」という意味で、世間では2者を特に区別することなく一色単に「無痛分娩」として語られることが多い様です。
その慣例を踏まえ、本記事でも、以下「無痛分娩」と「和通分娩」を総称して「無痛分娩」と呼びます。
日本における無痛分娩率
日本における無痛分娩率(全妊婦における無痛分娩の選択率)は、’16年時点で6.1%です。
一方で、海外に目を向けると、極端な例でフィンランドやフランスでは8~9割が「無痛分娩」を選択する状態であり、「自然分娩」が9割以上を占める日本とは真逆の状態になっています。
また、お隣の韓国でも4割が、中国では1割の方が無痛分娩を選択しており、日本よりも高い水準です。
もちろん、下図中の国は日本産科麻酔学会が恣意的に選定したものであり、その他の国々を見れば、無痛分娩率が日本よりもはるかに低水準なものも多く存在すると考えられます。
但し、少なくとも欧米やアジアの主要国と比較すると、日本は「無痛分娩後進国」であると言えそうです。
ここで、日本の無痛分娩率の推移を見てみると、’07年⇒’16年で2.6%⇒6.1%(2.3倍)になっており、低水準ではありつつも増加トレンドにあることは間違いなさそうです。
以上を踏まえると、今後は日本の無痛分娩率も他国水準(まずは中国の水準)まで少しずつ増加し、無痛分娩が現在よりもより一般的な分娩方法として普及することが予想されます。
病院選びのポイント
次に、具体的な病院選びのポイントを見ていきます。
ポイントは大きく6つあります。
- そもそも無痛分娩(和通分娩含む)に対応しているか
- 診断実績が200以上あるか
- 病院が直線距離で10km圏内にあるか
- 無痛分娩に24時間対応しているか
- 夫が出産に立ち合いできるか
- 実際に施設を訪れてみて、雰囲気が良いか
順に見ていきましょう。
1. そもそも無痛分娩に対応しているか
当然ですが、無痛分娩を希望する場合は、無痛分娩に対応可能な病院を選ぶ必要があります。
まずは、いくつかの病院にいきなり絞り込む前に、どのような病院が無痛分娩に対応しているか全体像を把握しましょう。
「無痛分娩 東京」 等で手当たり次第にGoogle検索することも可能ですが、SEOに長けた病院ばかりが優先表示され自分にあった病院を見逃してしまう可能性がありますし、時間がかかり効率的とも言えません。
そこで、厚生労働省が発表している「厚生労働省のウェブサイトに掲載を希望した無痛分娩取扱施設の一覧」を利用すると便利です。
この一覧は、厚生労働省が「各分娩施設における無痛分娩の取扱の有無を把握」するための調査で取りまとめられたものです。
掲載対象は厚生労働省に自己申告した病院なので若干の抜け漏れはあるかと思いますが、無痛分娩の取り扱いがあるのに敢えて申告しない病院は僅少なはずであり、本リストがほぼ全てをカバーできていると考えて差し支えないと思います。
ここでは一例として、「東京都」のリストを見てみましょう。
このリストを見ると、東京都には無痛分娩に対応する病院が全部で56施設あることが分かります。(令和4年4月28日時点)
また、当リストには病院名だけでなく、各病院の住所、無痛分娩に関わる医師の人数、診療実績 等のデータが記載されており、自分に合った病院の絞り込みに使うことができます。(詳細後述)
尚、当資料は残念なことにPDFファイルしかないので、実際に病院の絞り込みを行う際には、データをエクセルにコピー&ペーストして使いましょう。
2. 診断実績が200以上あるか
麻酔を使用する無痛分娩には、自然分娩にはない合併症 等のリスクが存在します。
安心の感じ方は人それぞれですが、筆者は、実績が多く無痛分娩に「慣れた」病院を選択し、このようなリスクを最小化することが重要になると考えます。
また、「何件の実績があれば安心か」はある程度「決め」の問題で人によると思いますが、筆者は「年間200件以上」を足切り基準にすることにしました。
尚、自然分娩を含めた「全分娩件数」が多い大病院でも、無痛分娩に限って言えば実績数が限定的なケースがありますのでご注意ください。
これにより、全部で56あった施設が一気に17施設に絞られました。
3. 病院が直線距離で10km圏内にあるか
病院は可能な限り自宅に近い方が良いです。
なぜなら、出産前も妊婦健診で何度も通院することになるし、特に和通分娩の場合は、実際に陣痛が来た際に痛みに耐えながら病院へ移動する必要があるためです。
自宅からの距離が5km以内であることが理想ですが、筆者の場合は車であれば30分程度で移動できる「10㎞圏内」を足切り基準にしました。
尚、自宅と各施設間の直線距離を機械的に測る方法として以下があります。
- 自宅住所と各施設の住所をGoogle Mapsにインポート
- 自宅を中心にした直径10㎞の円を地図上にプロット
- 円内の施設を「合格施設」として判断
但し、もちろん、もしこのようなGoogle Mapsの使い方に慣れていない場合は、「隣町」や「何となく近そう」 等の感覚的な判断でも問題ありません。
筆者の場合は、これで17施設⇒11施設に絞られました。
4. 無痛分娩に24時間対応しているか
判断基準から漏れがちですが、絶対に自然分娩を避けたい方にとって、病院が無痛分娩に24時間対応していることはとても重要な点です。
なぜなら、自分の選んだ病院が無痛分娩に24時間対応していない場合、麻酔医師の勤務時間外(平日夜/早朝や休日)に陣痛がくると、問答無用で自然分娩にされてしまう可能性があるためです。
多くの病院にとって麻酔医師を24時間確保しておくことは困難なため、無痛分娩に24時間対応可能な病院は数が限られます。
筆者は上記11施設のウェブサイトを全て訪問し、24時間対応しているか否かを1つ1つ調査しました。
結果、上記11施設⇒8施設に絞られました。
5. 夫が出産に立ち合いできるか
2021年当時、コロナ感染拡大防止を目的に、ほとんどの病院において妊婦以外の立ち入りを制限する規制がかかっていました。
規制のパターンは、以下シチュエーション [3] × 規制の強さ [3] = [9]通りでした。
- シチュエーション
- ①通院(妊婦健診)の付き添い
- ②出産時の立会い
- ③入院後のお見舞い
- 規制の強さ
- A: 夫も家族も立ち入り可能
- B: 夫のみ立ち入り可能(夫以外の家族は不可)
- C: 夫も家族も立ち入り不可
筆者は昔から自分の子供の出産立ち合いに強い希望を持っていたため、少なくとも「②出産時の立会い」において、「A: 夫も家族も立ち入り可能」or「B: 夫のみ立ち入り可能」になっていることを条件にしました。
各病院の規制状況を調べる方法は以下の通りです。
- 各病院のHP上で、規制について言及がないかチェック
- 記載がない部分については、電話で病院に直接確認
1点、緊急事態宣言/まん延防止等重点措置 等の発令状況やコロナ患者数の推移状況によって、同じ病院でも規制内容が変わることにご留意ください。
筆者の場合、同じ愛育病院でも、時期によって夫の「①通院(妊婦健診)の付き添い」が可能だったり不可能だったりしたため、必要あらば他院に切り替えることも視野に入れつつ、本願である「②出産時の立会い」が可能か毎月確認するようにしていました。
尚、「規制が厳しい」=「妊婦のコロナ感染リスクが低い」ことを意味するため、立ち合いよりも出産の安全性を優先したい方は、この条件を採用する必要はないと思います。
結果、遂に8施設⇒4施設に絞られました。
6.実際に施設を訪れてみて、雰囲気が良いか
最終ステップです。
ここまでで、東京都内における無痛分娩に対応する全56施設から、自分に合っていそうな4施設を抽出することができました。
4施設まで絞れれば、あとは実際に病院を訪れてみて、自身のフィーリングに合致したものを選ぶだけです。
具体的には、看護師さんを始めとする従業員の雰囲気や施設/設備のきれいさ/充実度 等を見ることになると思います。
これにより、筆者は港区にある愛育病院に最終決定しました。
まとめ
本記事では、無痛分娩を希望する方向けに、数ある選択肢の中から自分に適した病院を探すポイントについて、筆者の体験を交えながらご説明させていただきました。
判断基準は皆それぞれ違うと思いますが、上記6ポイントは多くの読者に当てはまるのだと思っています。
また、考え方や調査方法 等の細かいテクニックも参考になれば嬉しいです。
長文になってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
皆様の安産をお祈りしております。
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